大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)365号 判決

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、

控訴代理人において、

被控訴人は本件原野以外に

(1)  滝沢村大字滝沢第十四地割百二十七番 畑三段二畝二十三歩

(2)  同上八十六番 原野一段八畝十二歩

(3)  同上八十四番 田   四畝二十三歩

(4)  同上八十七番 田   三畝二歩

合計五段九畝(以上現況いずれも原野)を所有し全部採草地として使用しており、しかも本件原野より被控訴人方居宅に近い。また被控訴人は盛岡市区域及び滝沢村区域(但し後者は妻高橋サン名義)において主要食糧小売販売業を営んでおり、農業は単なる副業に過ぎない、と述べ

被控訴代理人において、

右各土地を被控訴人が所有することはこれを認める、但し現況(1)は山林、(2)は畑、(3)(4)は田でいずれも採草不能である、また被控訴人が主要食糧小売販売業者であることはこれを認めるが、耕地三町一段歩を所有して農業を営んでいるのである。

と述べた外、いずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。(証拠省略)

三、理  由

本件原野が被控訴人の所有に属すること、滝沢村農地委員会が右原野につき自創法に基き昭和二十三年十一月二十三日未墾地買収計画をたててから岩手県農業委員会が被控訴人の訴願を棄却し、該裁決書が被控訴人に送達されるまでの経過が被控訴人主張のとおりであること、並びに被控訴人が農業を営んでいることはいずれも当事者間に争がなく、原審証人熊谷カネ、高橋サキ、高橋一雄、当審証人伊藤末次の各証言を綜合すれば、被控訴人は馬一頭を所有し、約三町歩の耕地を所有して営農しているもので、本件原野を従来採草地として使用していることが認められ、この点に関する当審証人関村長吉、柳村兼吉の各証言は採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

よつて被控訴人が本件原野を採草地として使用することが被控訴人の農業経営上欠くべからざるものであるかどうかについて考察するに、被控訴人が控訴人主張の滝沢村大字滝沢第十四地割百二十七番畑三段二畝二十三歩外三筆の土地を所有することは当事者間に争のないところであるが、当審証人伊藤末次の証言によれば右土地は現況山林或は田畑となつており、現に採草するのに適当でない土地であることが認められる。なおまた成立に争のない甲第一、二号証、乙第一号証の二、第二号証の二と原審証人高橋一雄の証言を綜合すれば、被控訴人家には、被控訴人所有の土地が(イ)滝沢村大字滝沢に山林と原野二筆、(ロ)盛岡市下厨川に原野十筆、家族共有の土地が(ハ)滝沢村大字滝沢に原野一筆あるけれども右はいずれも或は薪炭林、或は工場敷地、住宅、或は開墾地として殆んど採草することができない土地であること並びに本件原野以外被控訴人の使用し得る採草地のないことが認められる。叙上の認定に反する当審証人関村長吉の証言及び同証言によつて成立を認める乙第三号証の二の記載は採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠がない。なお被控訴人の必要とする馬糧程度のものは、被控訴人がその所有農地から収穫することができる雑穀類をもつてこれに充てた場合必ずしも不足するものでないことは当審証人柳村兼吉の証言によつてこれを窺いえないことはないけれども、前認定の諸事実に徴すれば、現にかような状況にあるからといつて被控訴人がその採草地を欠く場合にその営農上少しも支障をきたすものでないとは遽かに肯認することができない。以上の事実を綜合すれば本件原野は被控訴人の営農上殆んど欠くことのできない採草地であると認められるのであつて、かかる原野を買収することは許されないものといわなければならない。被控訴人が主要食糧小売販売業を営み(このことは当事者間争がない)農業は副業であるからといつてかような事情は右の判断を左右するに足るものではない。

よつて本件原野につき滝沢村農地委員会のたてた前示買収計画は違法であり、これを維持した岩手県農業委員会の訴願棄却の裁決も違法たるを免れないから、これと同旨の原判決は相当である。(なお第一審被告岩手県農業委員会の地位は昭和二十九年法律第一八五号農業委員会法の一部を改正する法律附則第二十六項の規定により岩手県知事が受け継いだものである)

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 佐々木次雄 畠沢喜一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!